この研究は、唾液腺腺房細胞において、分泌刺激物質によって誘発される細胞内カルシウム(Ca^<2+>)振動が、どのような機序で発生するのか、電気生理学的手法を用いて解明することを目的としている。 平成4年度は以下の研究を行った。 1)パッチクランプ法による単一ラット顎下腺腺房細胞におけるCa^<2+>振動の記録:膜電流をパッチクランプ・ホールセル法で測定し、アセチルコリン(ACh)によってCl^-電流が反復性に生ずること、この電流は細胞内のCa^<2+>濃度の上昇で活性化されていること、すなわち、Ca^<2+>振動の発生を確認した。2)刺激の強さとCa^<2+>振動の関係:一定電位でのCl^-電流の大きさ(振動)は、細胞内Ca^<2+>濃度の上昇の程度を反映する。Ca^<2+>振動の振幅は弱い刺激によっては小さく、刺激の強さを増すと大きくなった。一方、振動数(頻度)も、強い刺激で増大するが、振幅の変化ほどには著明でなかった。3)Ca^<2+>振動に対するイノシトール3リン酸(IP_3)の役割:IP_3受容体抗体(mABl8A10)あるいは、IP_3拮抗剤へパリンを電極から細胞内に注入すると、AChによるCa^<2+>振動はほぼ完全に抑制された。このことから、生理的条件下でのCa^<2+>振動の発生に、IP_3は必須であることが判明した。4)ケージド(caged)IP_3によるCa^<2+>反応:この研究費で購入したケージド物質照射装置を用いて、あらかじめ細胞内投与しておいたcaged IP_3を瞬間的に活性化すると、単相性のCl^-電流と二相性のK^+電流がほぼ同時に発生することが判明した。さらに、発生する電流の大きさは照射の強さと相関した。 平成5年度の研究 IP_3の作用をさらに詳細に調べることを中心に研究を進め、この細胞におけるCa^<2+>の振動の発生機序を解明する。
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