筋収縮のエネルギー変換過程を調べる研究では、筋収縮中に筋内部で生じた一連の化学反応のエンタルピー変化が仕事と熱に変換される。筋の両端が固定された等尺性収縮条件下では外部に対し仕事がなされないため化学反応のエンタルピー変化はすべて熱に変換される。この熱産生はA.V.Hill以来、接触型の熱電推によって測定され、その時間経過のようすから筋収縮に関与する化学反応機序が推論されてきた。しかし、熱電推による方法では筋収縮中に筋の長軸に沿って加算される熱産生の時間経過について知ることができるが、(1)等尺性収縮中、筋の局所的な熱産生の時間経過がどのように変化するのか、(2)筋の弛緩時にどのような熱分布を示し、それが等尺性収縮後どのように変化するのか、(3)等尺性収縮中筋の局所的な熱産生とその部位での力学的応答がどのように関連づけられるのか、などについてはまったく不明である。 本研究は非接触型の高速HgCdTe赤外線半導体検出器による筋熱産生測定装置でウシガエル縫工筋における等尺性強縮中の熱産生を測定し、上記(1)-(3)にあげた疑問について調べた。(1)等尺性収縮中筋の局所的な熱産生の時間経過は、熱電推によって測定された3つの時相からなる熱産生の時間経過の結果と同じであった。(2)筋の弛緩時および収縮直後における熱分布は筋表面各部位で不均一であり、等尺性収縮中に生ずる正味の局所的な熱産生量も不均一であった。さらに腰骨端の部位で生ずる熱産生量のほうが脛骨端の部位で生ずるものより大きい傾向にあった。(3)等尺性収縮中の筋の局所的な熱産生とその部位での力学的なセグメントの長さ変化とは必ずしも対応関係が得られなかったが、短縮した中央部と腰骨端部のセグメントの熱産生量は伸長された脛骨端部のそれの熱産生量より大きくなる傾向がみられた。
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