研究概要 |
ウサギ交感神経節(SCG)中には、ムスカリン性刺激により特異的に燐酸化を受ける蛋白質(等電点4.2-4.6)が存在する。本年度はこれが近年脳で注目されているMARCKS蛋白と同一である事を、MARCKSのモノクローナル抗体を用いて同定した。MARCKSは蛋白キナーゼC(PKC)の特異的な細胞内基質として知られている。実際にSCGでも、Phorbol dibutyrateなどPKCの活性化剤によってこの蛋白の燐酸化が促進される。ところがこの蛋白はcGMP,IBMXなどによっても燐酸化され、フォトアフィニテイ・ラベル法によりcGMPに高い親和性を持つ蛋白(cGMP依存性蛋白キナーゼ,GK)の存在も別に証明された事から、SCG中にGKを介するMARCKSの燐酸化経路が存在する事が強く示唆され、これがPKCを介する経路と協調的に働いて、ムスカリン性応答を形成している可能性が示された。さらにMARCKSの被燐酸化ドメイン中のsite1-3のペプチドを合成し、両キナーゼに対する基質特異性を調べた。その結果、site-2はPKCに特異的であり、site-1はGKにもCaMキナーゼ-IIにも同程度の特異性を示した。このようにMARCKSはPKCと他の蛋白キナーゼの協調的な作用(クロストーク)の接点であり、この性質によりムスカリン性応答の根幹を形成している可能性を提示した。今後年度には、MARCKSの抗体を電気生理学的実験に活用して、ムスカリン性応答への関与を直接的に調べる予定である。
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