急速冷却によるCaイオン遊離機構と、細胞内に増加したCaイオンの除去機構を、エクオリン法を用いて調べた。エクオリンの光信号を細胞内Caイオン濃度に変換するために、種々の温度でCaイオン濃度とエクオリンの発光との関係を測定して、較正曲線をもとめた。溶液の温度を30℃から、24、18、12、7、4℃の各温度に低下させ、その時の細胞内Caイオン濃度を測定した。急速冷却時の温度が低くなるに従い、Ca信号の立ち上がりは遅くなった。また、Ca信号の減衰時間が延長した。急速冷却により放出されるCaイオン濃度は、冷却温度が低くなるに従い高くなった。これらの結果は、心筋筋小胞体のCa放出チャネルの開口は、急速冷却時の温度差に依存することを示唆している。低温下におけるCa除去機構を調べるために、各Ca除去機構に対する阻害剤を用いて抑制し、低温下における細胞内Ca除去機構を調べた。(1)Na‐Ca交換機構を抑制するNiや無Na溶液中では、Caの減衰時間は軽度に延長した。(2)筋小胞体のCa取り込みを抑制するタプシガルギン存在下ではCaの減衰時間はほとんど延長しなかった。しかし、タプシガルギンと同様な作用を持つTBQ存在下では、軽度な減衰時間の延長が認められた。(3)ミトコンドリアのCa取り込みを抑制するルテニウムレッドは著しく減衰時間を延長させた。これらの結果は、低温下ではCaはミトコンドリアに取り込まれると同時に、一部はNa‐Ca交換系と小胞体によっても処理されることを示唆している。
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