心筋の収縮は筋小胞体から放出されるCaイオンによって誘起される。生理的な筋小胞体からのCa放出には、細胞外からCa電流として流入するCaイオン自身によりCa放出が誘起されるCa誘発性Ca遊離機構が働いているものと考えられている。他方、溶液の温度を急速に低下させると筋小胞体からCaイオンが放出される。この急冷によるCa放出機序を、フェレットの心室筋にCa感受性発光蛋白エクオリンを適用して調べた。溶液の温度を急速に30度Cから4度Cにまで低下させると、活動電位を伴わないで一過性に細胞内Caイオン濃度が増加減少した。急冷誘発Ca遊離は細胞外液のKイオン濃度を変化させて膜電位を変えても影響されなかった。急冷誘発Ca放出はリアノジン処理筋では観察されないので、温度変化が直接筋小胞体からCaを放出するものと考えられた。急冷により放出されるCa量は急冷直前の細胞内Ca濃度には影響されなかった。また、外液NaをLiやTMAで置換すると急冷誘発Ca放出は抑制されたが、その直後に作用させた高濃度カフェインによるCa放出量は増加した。これらの結果は、急冷誘発Ca放出機構はカフェイン誘発Ca放出機構とは異なることを示唆している。急冷により増加したCa減衰過程の時間経過は、Na-Ca交換機構および、筋小胞体のCa取り込み機構を抑制すると僅かに延長し、ミトコンドリアのCa取り込みを抑制すると著しく遅延した。これらの結果から、急冷中に増加したCaはミトコンドリアにも相当量取り込まれることが推測された。
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