前庭眼振が3次元空間内の頭部の回転平面に対応して特異的にその平面で発生することは知られている。水平性の前庭眼振についてはOhkiら(1988)は舌下神経前位核およびその近傍に存在するBurster-driving neuron(BDN)が前庭眼振急速相の発現に重要であることを報告したが、垂直性の前庭眼振については同様な機能をもつニューロンがどこに存在するのか、またどのような発射特性を有するかについては全く不明なままである。本研究は垂直性の前庭眼振のBDNの条件を満足するニューロンを覚醒ネコを用いて探索し、その存在部位、発射特性さらにその領域の化学的不活性化による眼球運動障害を解析した。 垂直BDNの性質を備えたニューロンは中脳吻側部網様体で発見された。これらはCajal間質核とそのごく近傍の網様体にburstのon一方向が下向きのBDNが見つかり、それよりさらに外側部および尾側部に上向きon一方向のBDNが見つかった。on一方向が下向きのBDNは反対側前半規管から興奮性入力を受け、on一方向が上向きのBDNは後半規管から興奮性入力を受けた。これらはいずれも不規則な自発発射を示した。 Cajal間質核領域の下向きのBDNが記録された領域の両側の化学的不活性化により上向き下向きサッカードともその眼位の保持が選択的に障害され、その時定数は平均0.4秒迄短縮した。さらに下向き急速眼球運動の発現回数が選択的に減少した。Cajal間質核よりも外側部で上向きのBDNが記録された領域の両側性の化学的不活性化により上向き急速眼球運動の発現回数が有意に減少した。これらの実験結果はCajal間質核を含めた中脳吻側部領域が垂直方向の急速眼球運動の発現に必要であることを示す。
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