実験材料として、孵化14日の鶏胚毛様体神経節の摘出標本を用いた。 1.シナプス伝達のATPによる抑制 シナプス後細胞にパッチ電極法を適用し、全細胞膜電位固定下に、動眼神経を刺激することにより、興奮性シナプス電流(EPSC)を測定した。EPSCは、アデノシヒA1受容体の特異的な阻害薬の8-cyclo-pentyltheophylline(CPT)や8-phenyltheophylline(8-PT)により、影響を受けないか、わずかに増強することが認められた。これに対し、ATPは、1〜100μMで、EPSCを可逆的に抑制し、その作用は、CPTまたは8-PTにより拮抗された。細胞外液を低Ca高Mgに置換して量子解析を行なうことにより、ATPにより、平均量子数が減少することが認められた。以上によりATPは、シナプス前終末のアデノシンA1受容体に作用し、シナプス前終末からの伝達物質の放出を抑制することが明らかになった。 2.シナプス前終末のCa流入のATPにより抑制 シナプス前終末にCa感受性蛍光色素Fura-dextranをとり込ませ、340nmと380nmの2次長蛍光測光法により、シナプス前終末の細胞内Ca濃度を測定した。動眼神経の電気刺激により、単一の活動電位に伴なうCa変動が単一のシナプス前終末からとらえられた。ATPは、この活動電位依存性Ca増加を可逆的に抑制した。ATPの抑制作用は、CPTまたは8-PTにより拮抗された。以上により、ATPは、シナプス前終末のアデノシンA1受容体に作用し、シナプス前終末の活動電位に伴なうCa流入を抑制することが明らかになった。この抑制効果は、シナプス前終末をw-コノトキシンにより前処理することによう消失した。すなわち、アデノシンA1受容体が活性化されることより、w-コノトキシン感受性のCaチャネルが抑制されることが示唆される。
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