研究概要 |
ウシガエルの交感神経節では、節前線維の頻回刺激により興奮性後シナプス電位(fast EPSP)が長時間増大し、シナプス伝達の効率が長期促進(LTP)される。このLTPの発現に関わる機序について調べてきた。その結果について,既に以下のことを報告してきた。 このLTPは、節前神経終末に由来し、伝達物質(アセチルコリン)放出量の持続的な増大により起きる。またLTPの発現とその維持には、神経終末内のCa^<2+>濃度の持続的増大が必要である。更にLTPの発現に関わる細胞内情報伝達系を検索した結果、カルモジュリンに依存した代謝経路の活性化が、LTPの発現に必要である。 今回、LTPに対するアラキドン酸カスケード系の関与の有無を調べた結果、次のことが明らかとなった。1.phospholipideからアラキドン酸を遊離させるphospholipase A2の活性を阻害する4-bromophenacyl bromide(10μM)はLTPの発生やその維持に何の作用も与えなかった。2.cyclooxgenaseの阻害剤であるaspirin(50μM)とindomethacin(2μM)は、共にfast EPSPの振幅を減少させたが、LTPの発現と維持には影響を与えなかった。3.lipoxygenaseの阻害剤であるnordihydroguaiaretic acid(20μM)はLTPに何の作用も与えなかった。4.アラキドン酸(20μM)はニコチン受容体を介する応答を減少させ、ムスカリン受容体を介する応答を促進したが、LTPの発生とその維持には無関係であった。 以上の結果より、アラキドン酸およびそのカスケード系は、ウシガエルの腰部交感神経節におけるLTPの発現やその維持には関与しない、と結論された。一方、アラキドン酸のコリン作動性応答に対する興味ある作用については、今後更に詳しく検討していく。
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