研究概要 |
大脳皮質視覚野細胞の視覚反応は発達期の視覚体験により可塑的な修飾を受ける。視覚反応の可塑的変化はシナプス伝達の可塑的変化によって引き起こされるものと考えられている。これまでの研究により入力線維の高頻度刺激により興奮性シナプス伝達に長期増強と長期抑圧が起きることを明かにしている。本年度の研究では、抑制性のシナプス伝達に可塑的変化が起きるか調ベた。生後20-30日の発達期のラットの視覚野の切片標本を用い、IV層の電気刺激によりV層細胞に引き起こされる反応を細胞内記録した。潅流液にNMDA受容体阻害薬APVとnonNMDA受容体阻害薬DNQXを加えて、興奮性シナプス伝達を抑えて、抑制性シナプス後電位(IPSP)を記録した。高頻度(50Hz,1s)の条件刺激を与えると低頻度(0.1Hz)の試験刺激によって引き起こされるIPSPに長期的な増大が起きた。このIPSPの長期増強は条件刺激を与えたシナプスに特異的に起こり、IPSPの起電力の変化ではなく、IPSPコンダクタンスの増加によっていた。たとえ、潅流液からAPVを除いて条件刺激を与えてもIPSPの長期増強は同様に起きた。しかし、さらにGABA_A阻害薬を加えて条件刺激がNMDA受容体・チャンネルを活性化しやすくすると長期増強の代わりに長期抑圧が起こった。IPSPの長期抑圧は記録細胞にNMDAを投与することによっても引き起こされ、その発現が記録細胞にCa^<2+>キレーターのBAPTAを注入すると妨げられるので、NMDA受容体・チャンネルを通ってCa^<2+>がシナプス後細胞に入ると長期抑圧が起きるものと考えられる。以上の結果は、視覚野細胞の抑制性シナプスの高頻度活動によりIPSPの長期増強が起こり、同じ細胞への興奮性シナプスの高頻度活動によりIPSPの長期抑圧が起きることを示している。この抑制性シナプス伝達の長期増強と長期抑圧は発達期の視覚体験による視覚反応の選択性の向上に役立つものと思われる。
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