本研究の目的は哺乳動物の副交感神経細胞に賦与されている二つの極性の異なる振動子の機序とその調節を電気生理学的に解明することであった。本補助金で購入した器具等を用いて多くの成果を上げることができた。 ウサギ膀胱神経節細胞に発生する過分極性膜電位振動(SH)の振動子は細胞質Ca濃度([Ca]_c)の振動で、それにより形質膜Ca依存性イオンチャネルの周期的開閉が起こることを提示した。静止電位で活性化しているCa influx、細胞内Ca貯蔵部位からのCa誘起性Ca放出及びCa取り込み機構が連関して[Ca]_cの振動が起こるモデルを構築した。ネコ結腸神経節細胞に発生する脱分極性膜電位(DMO)の主たるイオン機序はテトロドトキシン感受性、膜電位依存性Naチャネルの活性化によることを示した。振動子はこのNaチャネルが示す負性抵抗に基づくことを示唆した。SH及びDMOは各々シナプス伝達の減衰器及び増幅器として機能しており、種々の生体内活性物質がそれらの作動状態を調節している。SHはエンドセリンによりサイクリックGMPを介して増強される。またα_2及びマスカリン受容体の活性化により各々DMOの抑制及び増強が起こり、神経細胞の興奮性が機能的に変換されることを明らかにした。これらは自律神経系に於ける情報処理に“振動子とその調節による"機構があることを初めて実証したものである。また一般に神経細胞膜の等価回路に発振器及び作動・停止スイッチを組み込むことでより高度な情報処理が可能になることを示唆した。本研究で提示した二つのモデルは決して特殊なものではなく、これらに含まれる細胞装置は中枢神経系にも広く分布しており、それらの機能解明の糸口となると考えられる。また比較生理学的視点より振動子局在には種特異性、部位特異性のあることを示した。
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