研究概要 |
本研究は、浸透圧刺激下の抗利尿ホルモン(ADH)分泌促進機構における脳内ドーパミン(DA)神経の役割を解明する為に計画したものである。実験は、科研費交付申請書に記載した通りに行った。まず、[1]ADH分泌の高進に寄与するDA神経の脳室周囲における位置を調べるため、osmoreceptor complexのある第三脳室腹側前部と、ここからの浸透圧情報が投射する室傍核にDAを局所投与し、それらのADH分泌に対する効果を、脳室内投与の場合と比較検討した。その結果、DAのADH分泌促進作用は、室傍核内投与の方が、脳室内投与に比べてはるかに大きいこと、しかし、第三脳室腹側前部への投与は、ADH分泌を変えないことが判明した。従って、室傍核に投射するDA神経はADH分泌の促進に働く可能性があるものの、第三脳室腹側前部に投射するものは、ADH分泌の調節に重要な役割を持たないと考えられた(Acta Endocrinol.1992)。次に、[2]室傍核に投射するDA神経が浸透圧性のADH分泌に働くのかどうか、を調べる為、DA受容体阻害薬ハロペリドール(HL)の両側室傍核内投与の効果を検討した。しかし、HL室傍核投与は浸透圧刺激によるADH分泌に影響しなかった。HLは、脳室内投与の場合にはそれを抑えるので、この結果は、浸透圧刺激によるADH分泌には室傍核以外にある脳室周囲DA神経の関与すること、を示唆している(発表準備中)。[3]浸透圧刺激によるADH分泌は、脳室内にプロスタグランジン(PG)産生阻害薬を与えても、DA受容体阻害薬を与えても抑えられる。しかしDA投与によるADH分泌は、PG産生阻害薬の脳室内投与で影響されなかった。私は、以前、PGの脳室内投与によるADH分泌はDA受容体阻害薬の脳室内投与で抑えられないことを解明しているので、これらの結果は、浸透圧性のADH分泌促進において、脳内のDA系とPG系は相互に独立して機能することを示唆している[Brain Research,印刷中]。
|