研究概要 |
食物摂取は体熱産生の亢進を引き起こし体温上昇の結果、体温調節反応に影響する。本研究では、手指を冷水浸漬したときの寒冷血管拡張反応(CIVD)中の皮膚血流量、皮膚温などの生理学的応答におよぼす食事摂取(700kcal)の効果、および同一熱量で異なる食物組成(高炭水化物食:C、高蛋白質食:P)の効果を無摂取(N)と比べて明らかにすることを目的とした。実験は室温25±0.5℃、湿度40±3%に調節された人工気象室で、健康な成人7名を被験者として行った。食後60分、5℃冷水浸漬直前の口腔温は無摂取に比べC,Pいずれを摂取した場合も0.2℃の上昇であり、組成の違いによる差は認められなかった。指皮膚温の変化はCIVD指数(冷水浸漬中最低温を示した時点から上昇した毎分皮膚温-毎分水温の合計)では食事摂取により高値を示し、P摂取ではNに比べ有意に高かった。この上昇の原因はCIVD発現開始時間の短縮(C,Pで有意)、CIVD発現温度の上昇(Pで有意)、浸漬中の最高皮膚温の上昇(Pで有意)であり、CIVD幅には差が見られなかった。レーザー・ドップラー血流計にて測定した指皮膚血流量は、CIVD時には著明に増加しその大きさはC>P>Nの順であった。浸漬中の皮膚血流量は三条件間に差が認められなかった。一方、浸漬後にはP>C>Nの順となりNとC,NとPそれぞれの条件間差は有意であったが、食物組成の違いによる差異は認められなかった。静脈閉塞法による指の全血流量測定との同時計測も試みたが、極度の低水温のため正確な測定は困難であった。しかし、低皮膚温のため、この血流量増加の大部分は動静脈吻合(AVA)血流量であろうと推察される。いずれの食事条件でもCIVD発現時には指皮膚血流量の著増が観察され、食物摂取による体温、皮膚温の上昇に起因する僅かな皮膚(AVA)血流量の増加が、浸漬中の皮膚温の上昇、CIVD指数の亢進につながったと考えられる。
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