頚動脈圧受容器反射の応答曲線に及ぼす酸素分圧の影響を調べる為に、先ず1気圧環境(正常酸素分圧)で実験で行った。 11名の健康男子にネックチャンバーを用いて、頚動脈に-30、-50、-70mmHgの陰圧を負荷し、負荷の大きさと筋交感神経活動(MSNA)、およびR-R間隔との関係を調べた。loading刺激の大きさに応じて筋交感神経活動と血圧の低下及びR-R間隔が増大した。心拍数は交感神経及び副交感神経の二重支配を受けているのでこのR-R間隔の増大(心拍数の低下)にはいずれ(または両者)この自律神経系が関与しているかを調べる目的で中枢からの交感神経支配が遮断されている頚髄損傷患者(切断部位、C5-C8、副交感神経は正常)5名に同様な実験を行った。その結果頚髄損傷患者では安静時の血圧、及び心拍数は正常者に較べて有意に低いが頚動脈圧受容器のloading刺激により正常者と同等のR-R間隔の増大と血圧の低下が起きることが判明した。このことからneck suctionによるR-R間隔の延長は主として心臓副交感神経活動の亢進によるもので交感神経系の関与は少ないと推察された。また両者共にloading刺激中の皮膚血流量に変化がみられないことから頚動脈圧受容器のloading刺激による初期の血低下は末梢血管の拡張によるものではなく、心拍数の低下による心拍出量の低下が原因であることが示唆された。以上の結果は第31回日本生気象学会総会(1992年10月、東京)において発表した。
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