頸動脈圧受容器反射に及ぼす低酸素分圧の影響を調べるために低気圧チャンバーにて高度3、800m(PO2=98mmHg)、および高度4、300m(92mmHg)をシミュレイトして実験を行った。まず正常気圧(sea level)で8名の健康男子を被験者として頸にネックチャンバーを装着し+40mmHgから-50mmHgまでネックチャンバーの圧力を心拍と同期させながら変化させ、R-R間隔を測定した。次いで低気圧チャンバーを高度3、800mに減圧し(470mmHg)、1時間の安静の後に正常気圧と同様な測定を行った。1週間以上経過後、同様な実験を高度4、300m(440mmHg)で行った。各々の気圧で頸動脈に作用したそれぞれの圧力に対し、R-R間隔をプロットし、カーブフィッテイングを行うと、心臓に対する頸動脈圧反射応答はシグモイドカーブでよくフィットした。高度3、800mでの頸動脈圧反射応答曲線は正常気圧のそれより下方にシフトする傾向にあったが、統計的には差を認めなかった。一方4、300mでは正常気圧より有意に下方にシフトし、また最大ゲインも正常気圧より低値であった。このことをさらに確かめるために、4300mに1時間曝露して圧受容器反射を測定した後、正常気圧と同等な酸素と炭酸ガス分圧をもつ混合ガスを4300m環境で30分吸入したのち、圧受容器反射を測定した。その結果、4、300mで下方にシフトした頸動脈圧反射応答曲線は正常気圧のレベルにほぼ回復した。以上の結果から低気圧環境では心臓に対する頸動脈圧受容器反射が抑制されることが判明した。さらにこの抑制が起きる閾値は酸素分圧で約90mmHg付近にあることが示唆された。
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