ヒトに低気圧環境下で姿勢変換(臥位から立位)テストを行ったときの心臓血管系に及ぼす影響を調べる為に11人の男子被験者に高度3700mをシミュレイトした低気圧チャンバーで10分間の70°head-up tilt testを行った。その結果、正常気圧ではhead-up tiltの間、血圧は正常範囲に維持されるのに対し、3700mでは平均動脈圧が10mmHg低下し(P<0.05)、3人の被験者にpresyncopeが見られた。さらに高度4300mでは誰も15分間のhead-up tilt testに耐えられなかった。3700mでのhead-up tilt test中、全末梢血管抵抗の増加は正常気圧でのテストにくらべて抑制されており(P<0.05)、低気圧環境では血圧反射応答の感受性が低下していることが推測された。そこで血圧反射に及ぼす酸素分圧の影響を詳しく調べるために、頸動脈を外部から圧迫または吸引出来る装置(neck chamber)を用い、心臓の応答をR-R間隔を指標に評価した。R-R間隔の圧反射応答曲線はシグモイドカーブでよくフィットした。高度3800m(PO2=98mmHg)では圧反射応答曲線は正常気圧のそれより下方にシフトする傾向にあったが統計的には差を認めなかった。高度4300mm(PO2=92mmHg)では圧反射応答曲線は正常気圧のそれより下方にシフトし(P<0.05)、また最大ゲインも正常気圧より低値を示した(P<0.05)。さらにこの圧反射応答曲線は正常な酸素分圧のガスを吸入すると(hypobaric normoxia)、正常気圧のレベルにほぼ回復した。以上の結果から低気圧環境では心臓に対する圧受容器反射の感受性が低下し、この時の酸素分圧の閾値は約90mmHg付近であることが判明した。従って低気圧環境下でヒトの姿勢変換時耐性が低下する理由として心臓に対する圧反射応答の感受性の変化が原因の1つであることが示唆された。
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