脳弓下器官ニューロンは脳室内および血管内の情報を感知するセンサーとしての役割をもち、循環系および体液調節を行なっている。この領域のニューロンは細胞が小さいことなどから、電気生理学的性質および化学感受性についてほとんどわかっていなかった。ラットのSFOスライス標本から細胞内記録を行ない、(1)基本的な電気生理学的性質の検索、(2)シナプス入力の解析、(3)アンギオテンシン(AII)の作用、および(4)γ-アミノ酪酸(GABA)の作用を調べた。結果:1。脳弓下器官ニューロンの約半数は自発放電活動を示した。自発放電を示すニューロンは内向き異常整流を示すニューロンが多かった。また、86%でlow threshold Ca spike(LTS)が観察された。異常内向き整流やLTSは自発放電を有するニューロンに多く認められ、放電パターンを修飾している可能性が示唆された。2。自発性あるいは電気刺激によって誘発される興奮性シナプス後電位(EPSP)や抑制性シナプス後電位(IPSP)が観察され、EPSPは主にグルタミン酸、IPSPはGABAによって誘発されることがわかった。3。アンギオテンシン(AII)により脳弓下器官ニューロンは脱分極反応を示すが、この反応はAIIによる非選択性のカチオンチャネルかカルシウムチャネルの開口確率の上昇によることを示唆する結果を得た。また、脳弓下器官にはAII含有神経細胞が存在し、血液由来のAIIばかりでなく神経性由来のAIIが作用している可能性があるが、主に前者の入力が興奮性に脳弓下器官ニューロンに作用している可能性が示唆された。4。GABAはGABA_A受容体を介して、クロライドチャネルを活性化し、抑制性入力を脳弓下器官ニューロンに送っていることがわかった。
|