心筋刺激伝導系組織の細胞外スペースは心室収縮筋より著明に大きく、ウサギやラットでは左心室の細胞外スペースは約25-30%であるが、房室結節は左心室の約2.5倍大きい。今回、房室結節部の細胞外スペースの変化が伝導性を調節しているという仮説を立証するために、イヌ摘出血液灌流房室結節標本を用い、房室結節動脈にマンニトールを選択的に持続注入して、房室結節伝導時間(AH、HV間隔)、有効不応期(ERP)、機能的不応期(FRP)の経時的変化を計測した。20%マンニトール溶液を房室結節動脈に血流量の10、20、25、30%の速度で持続注入すると、AH間隔、ERP、FRPは濃度依存的に延長し、ウエンケバッハ型第2度房室ブロックが惹起された。マンニトールを前中隔動脈に血流量の25、30%の速度で持続注入すると、HV間隔が延長した。これらの変化は持続注入を止め、マンニトールを洗い流すと元に戻った。これらの変化には、血流量の10-30%をマンニトールで置換することによる虚血の影響は関係していなかった。マンニトールを蒸留水で溶解すると、血中Na^十、K^十、Cl^-濃度は全て減少し、0.9%生理的食塩水で溶解するとNa^十、Cl^-濃度変化しないがK^十濃度は減少し、タイロード液で溶解するとこれらのイオン濃度はすべて変化しなかった。にも拘わらずマンニトールによるAH間隔の延長は3種の溶媒で一致していた。更に、房室結節伝導に殆ど影響しない10%マンニトール持続注入中には、アセチルコリンの陰性変伝導作用が大きく増強された。結論として、細胞外スペースの変化は伝導性に著明な影響を及ぼし、生理活性物質や薬物に対する感受性を変化させる事が明らかとなった。細胞外スペースの調節が心臓の伝導性を規定する重要な機序であることを示唆している。
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