研究概要 |
前年度の研究は、海馬・扁桃体および嗅球の破壊に基づく短期および長期記憶におよぼす影響を明らかにする事に焦点をあて試行した。 3-panel runway装置を用いてのrepeated acquisition課題での作業記憶(短期記憶)は,背側海馬および扁桃体外側基底核の破壊によっていずれも著しく障害されたが,その障害は再frainingによって対照群レベルまで回復した。しかし,参照記憶(長期記憶)はいずれの破壊によっても影響を受けなかった。一方,嗅球摘出により3-lever operant装置を用いての遅延見本合わせ課題(短期記憶)も著しく障害されたが,この障害はその後再trainingを重ねても対照群レベルまで回復しなかった。3-panel ranway装置を用いての長期記憶も嗅球摘出によって著しく障害された。これらの事から,本学習課題における短期記憶には海馬・扁桃体・嗅球が共に重要な役割を演じているが,長期記憶の維持には海馬・扁桃体の関与が薄い事が明らかとなった。これの脳局所破壊に基づく短期記憶障害は新規コリンエステラーゼ阻害剤テトラヒドロアミノアクリジン(THA)およびNIK-247によって改善された。また本課題での短期記憶は抗コリン剤スコポラミンやNMDA受容体の拮抗剤CGS-19755によって誘発された。さらにCGS-19755を海馬に微量注入しても同様の短期記憶障害が認められたが,長期記憶には影響をおよぼさなかった。これらの事から,短期記憶はAch受容体およびNMDA受容体を介した神経機構(少なくともその一部は海馬)の関与が示唆される。 一方,THAやNIK-247の薬物弁別学習を試み,これらの薬物がAch神経系および一部dopamine神経系の活動性を増強する作用を有することを明らかにした。また幻覚剤メスカリン誘発head-twitchは一連の脳代謝改善薬やTHAによって抑制された。これらの結果は臨床上の治療効果のいかなる所見と相関するのか,今後の興味ある問題を提起した。
|