研究概要 |
海馬のCA1及び歯状回のシナプス伝達長期増強(LTP)はNMDA型グルタミン酸受容体の活性化による後シナプス部位へのCa^<2+>流入がその引き金となる。NMDA受容体刺激に伴って流入したCa^<2+>はCaMキナーゼIIの自己燐酸化を促進する。一度、自己燐酸化された酵素はCa^<2+>非依存性となり、細胞内Ca^<2+>が元のレベルに戻っても、活性化を維持できるという仮説を、私達は提唱している。最初に、培養海馬神経細胞において、NMDA受容体刺激に伴ってCaMキナーゼIIのCa^<2+>非依存性活性が上昇することを報告した(J.Biol.Chem.,1992)。細胞内ではCaMキナーゼIIのCa^<2+>非依存性活性はプロテインホスファターゼによって調節されていること、特にプロテインホスファターゼ2CがCaMキナーゼIIの脱燐酸化反応に関与することをリコンビナントのホスファターゼ2Cを用いて明らかにした(J.Biol.Chem.,1993)。次に、海馬切片標本を用いてLTP誘発に伴うCA1領域でのCaMキナーゼIIの活性化反応について追究した。CA1への2つの入力線維を高頻度刺激し、LTPを誘発後、CaMキナーゼIIのCa^<2+>非依存性活性、全活性を測定した。刺激後5分から1時間までCa^<2+>非依存性活性の有意な上昇を確認した。LTP発現後1時間では全活性の上昇も確認された(J.Biol.Chem.,1993)。NMDA受容体阻害剤でLTPの発現を阻害すると、CaMキナーゼIIのCa^<2+>非依存性活性と全活性の上昇が共に完全に抑制された。以上の結果は、海馬におけるLTPの発現にCaMキナーゼIIのCa^<2+>非依存性活性が関与するという仮説を支持するものである。さらにLTPにおけるCaMキナーゼIIの標的蛋白質を明らかにすることによってシナプス可塑性発現の分子機構を追究する。
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