神経細胞障害機序を解明する目的で、NMDA受容体を中心として、(1)他の神経伝達物質受容体との機能的相関性の検討、および(2)NMDA受容体を有する株化神経細胞の検索を行った。(1)神経化学的研究において繁用されるNG108-15細胞(NG細胞)を用い、NMDA受容体が存在するか否かについて、Caの細胞内流入と[3H]MK-801結合を測定することにより検討したところ、NG細胞ではNMDAによりCa流入が増大し、この増大はMK-801により用量依存的に阻害されること、および[3H]MK-801結合部位が存在することなどから、NG細胞には薬理学的特性を有するNMDA受容体が存在することが判明した。従って今後このNG細胞は、神経細胞障害機序を検討するために有用な実験系となりうることが示唆された。(2)NMDA受容体に対する他の神経伝達物質受容体の作用については、NMDA受容体を有していることが明らかにされている初代培養大脳皮質神経細胞を用いて、この神経細胞が保持しているムスカリン受容体、β-アドレナリン受容体およびGABA_A受容体との機能相関性を検討したところ、ムスカリンおよびβ-アドレナリン受容体は、NMDA受容体刺激により生じるCaの細胞内への流入に影響を与えないことが判明した。一方、GABA_A受容体をそのアゴニストで刺激した場合には、NMDA受容体刺激に伴うCaの細胞内流入を有意に増加させ、しかもこの増強効果はGABA_A受容体アンタゴニストであるビククリンによって抑制された。またこの増強効果はピクロトキシンでは影響をうけず、L型Caチャネル拮抗薬であるベラパミールにより有意に抑制された。これらの結果から、GABA_A受容体刺激はNMDAの存在下において、NMDA誘発性のCa流入を、L型Caチャネルの活性化を介して増強することが示唆される。
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