Ca^<2+>-ATPaseのATPやPiでリン酸化される触媒部位含量(4.57-4.94nmol/mg蛋白)は、FITCでラベルされたLys-515量(8.19nmol/mg蛋白)及び分子量から計算されるCa^<2+>-ATPaseポリペプチド量(9.06nmol/mg蛋白)の約1/2であった。従って、Ca^<2+>-ATPase1分子には1個のATP結合部位(Lys-515のFITC結合部位)が存在すること、この内の半数がATPやPiでリン酸化される触媒部位であること(half-of-the-sites reactivity)が明らかとなり、Ca^<2+>輸送の機能単位はCa^<2+>-ATPaseの二量体であると結論された。また、ATPによるリン酸化を完全に阻害するFITC結合量は6.4nmol/mg蛋白であり、二量体を構成するCa^<2+>-ATPase分子の内の一方のATP結合部位により選択的にFITCが結合してリン酸化を阻害することが強く示唆された。 次に、我々はATP結合によって起こるCa^<2+>-ATPase分子の構造変化を解析することに研究を発展させている。このため、Ca^<2+>-ATPaseの内因性トリプトファン蛍光、及び特異的アミノ酸残基に導入した外因性プローブの蛍光のATPによる変化をストップドフロー法で測定し、これらの時間経過をラピッドクエンチング法によって測定したリン酸化中間体(EP)形成の時間経過と比較している。現在のところ、細胞質領域に存在するATP結合部位近傍では酵素・ATP複合体が形成するステップとEPが形成するステップで構造変化が起こること、他方Ca^<2+>輸送部位が存在する膜貫通領域とその近傍ではEPが形成するステップで構造変化が起こることを示唆する結果が得られている。そこで今後、触媒部位及びCa^<2+>輸送部位において、Ca^<2+>輸送のどの過程でどのような構造変化が起こるかを明確にし、両部位間における構造変化の伝達機構について検討したい。さらに、これらの変化におけるCa^<2+>-ATPaseの分子間相互作用の役割について検討したい。
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