ミトコンドリア蛋白質前駆体はそのN末端部にいわゆるプレ配列を持ち、これがミトコンドリア輸送のシグナルとなる。また、ミトコンドリアの外膜と内膜とから成るコンタクトサイトには複数の蛋白質で構成される前駆体蛋白質輸入装置があり、ここで前駆体蛋白質のシグナルを認識しミトコンドリア内に輸入する。我々はこの輸入装置の構成蛋白質を今迄三種類(29kDa蛋白質、42kDa蛋白質、52kDa蛋白質)分離同定している。そこで、今回はシグナル配列を持たないポリンなどの外膜蛋白質の輸入にこの輸入装置が関与しているかどうかを検討した。無細胞蛋白質翻訳系で合成されたポリンのミトコンドリアへの輸送実験を行ったところ、ポリンの外膜への輸送定着は29kDa蛋白質の抗体によって顕著に阻害された。従って29kDa蛋白質などによって構成されている輸送装置は、シグナル配列を持つマトリックス蛋白質や膜間腔蛋白質のみならず、シグナル配列を持たない外膜蛋白質の輸送にも関わっている可能性が高いことが示唆された。一方、29kDa蛋白質のN末端側アミノ酸配列に基づきオリゴDNAを作成し、それをプローブとしてラット肝cDNAライブラリーからスクリーニングの結果、cDNAクローンを拾うことができた。その塩基配列から推測されたアミノ酸配列中にプローブ作成の基準としたN末端アミノ酸配列が確かに存在した。本クローンにコードされている蛋白質の分子量は約28kDaであり、SDSPAGEで得られた29kDaという値と一致した。また、29kDa蛋白質のN末端側にはシグナル配列と思われるアミノ酸配列が存在するが、残念ながら我々のクローンには開始コドンが存在せず、従って実際のシグナルの長さ、特徴などは今のところ不明である。
|