リボソームRNA合成開始複合体を形成するためには、UBF(Upstream Binding Factor)とSL‐1の2種のDNA結合タンパク質が必要である。本年度は、UBFを中心として研究を進めた。UBFのcDNAクローンの塩基配列から合成プライマーを合成し、サーマルシークエンサーを使用して部分欠損型変異クローンDNAを作製した。作製したクローンをカイコ培養細胞系を用いて大量に発現する試みを行なったが、良い結果を得ることができなかった。そこで、マルトース結合タンパク質との融合タンパク質として大腸菌を用いて発現させ、以下の実験に供した。DNA結合活性は、6個存在するHMG‐boxと呼ばれる領域が荷い、リボソームRNA合成開始複合体を形成するタンパク性因子とはカルボキシル基末端に存在する酸性アミノ酸に富む領域(acidic tail)を介して相互作用していることがわかった。DNA鎖との結合能の強弱をゲルシフト法により調べた結果、HMG‐boxのうちアミノ基本端に位置するHMG‐box1がDNA結合に必須であり、残りの5つの領域が結合性を補強していことが明らかとなった。核移行シグナルは、4番目のHMG‐boxに存在し、31の塩基性アミノ酸に富む領域であった。核移行シグナルを含む変異タンパク質を培養細胞内で発現させ、核小体への濃縮を調べた結果、アミノ基末端の101アミノ酸残基の領域のみが核小体への濃縮に影響を与えず、1番目のHMG‐box及びacidic tailの領域は必須であった。即ち、核小体への濃縮にはタンパク質分子内に特別なシグナルが存在するのではなく、リボソームRNA遺伝子のプロモーター領域に結合し、他のタンパク性因子と相互作用をして安定なリボソームRNA合成開始複合体を核小体で形成する結果得られる現象であることが明確になった。さらに、UBFのポリクローナル抗体を作製し、UBFタンパク質の翻訳量、その挙動などを明らかにするために供し、研究を進めている。
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