研究概要 |
1.ミトコンドリア(mt)DNA中の8-hydroxy-deoxyguanosine(8-OH-dG),および遺伝子欠失の定量;若年者から高齢者まで20症例のヒト剖検心筋よりmtDNAを抽出し、ミクロ高速液体クロマトグラフィー/質量分析計(μHPLC/MS)システム、グラジエント高速液体クロマトグラフイー(HPLC)システムにて8-OH-dGの定量を行った。同時に、kinetic PCR法にて遺伝子欠失を定量した。その結果、8-OH-dG量は加齢と共に指数関数的に増加し[log(8-OH-dG,%)=-3.79+0.0400xage,r=0.85,P<0.01]、97歳で1.5%に達した。7.4kilo base欠失をもつmtDNAの比率も増加を示し[log(deleted mtDNA,%)=-3.59+0.0444x age,r=0.83,P<0.01]、97歳で7.0%に達した。さらに、8-OH-dG量と欠失mtDNAの比率との間には強い相関が見られた(r=0.92)。Cancer Research誌(52,3483-5,1992)に、8-OH-dGはconformationや電気的陰性度がdGと異なるため点変異を引き起こすことが報告された。mtDNAは修復機構を欠くので、8-OH-dGが蓄積すると二重鎖間の断裂より欠失の誘因となると考えられる。また逆に、欠失mtDNA由来のmt呼吸鎖からは多量の活性酸素が生成され、その結果さらにDNAの酸素障害が進むことが考えられ、この悪循環のため、8-OH-dGの蓄積と欠失mtDNAの比率との間に強い相関があると思われる。 2.mt呼吸鎖活性の低下と8-OH-dGの蓄積;7,55,100週齢のWister系雄性ラットより心臓と肝臓を摘出し、mt画を調製し電子伝達系Comple xI〜IVの活性を測定した。同時に、mtDNAを抽出しグラジエントHPLCシステムにて8-OH-dGの定量を行った。この結果、心筋において、100週齢ラットでmt活性の低下と8-OH-dGの蓄積が認められた。一方、肝臓では変化は認められなかった。加齢に伴うmtDNA障害は臓器間に差があり、加齢に伴うmt呼吸鎖活性低下の重要な成因の一つであることが明らかとなった。
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