研究概要 |
ミトコンドリア脳筋症の発症の分子機構を解明するために、剖検組織の解析と培養細胞を用いた解析を併用した。 剖検組織の解析では、組織によって変異ミトコンドリアDNAの比率が変化することを明らかにした。 培養細胞の解析では、患者の培養細胞とミトコンドリアDNAを完全に欠くHeLa細胞を融合し核の効果を除去して変異ミトコンドリアの効果を調べた。変異ミトコンドリアの比率、酵素活性、タンパク質合成、複合体の形成の有無を解析した。 乳児致死性の心筋症患者にミトコンドリアtRNA-Ileのacceptor stemの塩基番号4269に塩基置換が見つけられていた。変異tRNA-Ileの機能を調べるためにミトコンドリア内のタンパク質合成を測定した。方法は細胞質タンパク質合成の阻害剤エメチン存在下でアイソトープ標識アミノ酸をとりこませ、SDS-PAGEで解析した。するとtRNA-Ileの点変異によってタンパク質合成は著しく低下し、4269変異によって心筋症が発症することが強く示唆された。この変異は3243,8344変異に続くタンパク質合成を低下させることが証明された第3の変異である。 MELASでは3243と3271に変異が見つかっているが、3243変異ではミトコンドリア内のタンパク質合成速度が低下し、特に高分子のタンパク質合成速度が低下していた。一方、3271変異では全体のタンパク質合成速度はほぼ正常細胞と同じであったが、間違ったアミノ酸を取り込んだと示唆される結果が得られた。また、複合体の形成では3243変異では複合体形成に顕著な異常が認められたが、3271変異では特に顕著な変化は認められず、3243変異と3271変異に共通の性質は認められなかった。
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