ラット肝化学発癌過程の非常に初期から極めて特異的に発現する薬剤代謝酵素、グルタチオントランスフェラーゼP(GST-P)がどのような機構で特異的に発現されてくるかを調べ、これを糸口として発癌によって生じた異常なシグナルが転写制御機構にどのように変化を及ぼすかについて研究してきた。GST-Pの発現制御機構を詳しく検討し以下の点が新しく明かとなった。GPEIと名付けたエンハンサーエレメント、さらに-65の位置に存在するTREに癌遺伝子産物Junが作用しGST-P遺伝子を活性化することはすでに報告したが、最近解析が進んでいるmaf癌遺伝子の産物が結合し転写を強く促進することが分かった。Mafの発癌過程でのGST-P発現との関わりを現在検討している。Junがグルココルチコイドによって阻害され、GST-Pの発現はグルココルチコイドによって抑制されるがグルココルチコイドによって抑制されないGST-Pの発現がみられ、Jun以外の因子も関与していることが証明された。さらにグルココルチコイド受容体と同じファミリーに属する核内受容体ペルオキシソーム増殖剤受容体(PPAR)もJunと相互作用しGST-P遺伝子の発現を抑制することも明かとなった。PPAR受容体(PPAR)cDNAをラット肝からクローンし細胞に導入した結果、GST-P遺伝子の発現はペルオキシソーム増殖剤、クロフィブレートに依存して抑えられた。このGST-P遺伝子の発現抑制はGST-P遺伝子の-65付近に存在するTRE配列に依存しており、ここにはJunとMafが結合して転写を促進するが、そのうちJunの転写促進活性がPPARおよびクロフィブレートによって特異的に抑制されることが分かった。逆にPPARの転写促進活性もJunによって抑制されることから、これらはお互いに相互作用し、お互いの活性を抑制していることが分かった。
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