研究概要 |
シトルリン血症は、尿素サイクル酵素の1つであるアルギニノコハク酸合成酵素(ASS)の異常に基づく代謝性疾患であり、病因を異にする新生児小児発症型(I型、III型)と成人発症型(II型)の2つに大別される。本研究の目的は、シトルリン血症におけるASS異常の原因を明らかにし、基礎的・臨床的に応用することである。昨年度は、homozygosity testを用いた解析により、肝臓特異的にASS欠損を示す成人発症II型シトルリン血症の原因がASS遺伝子上になく、他の未同定遺伝子の異常に起因する可能性を明らかにした。 今年度(平成5年度)は、日本における新生児小児シトルリン血症の変異解析結果を中心に報告する。新生児小児発症型のASS欠損は全身に見られ、主にアメリカの14症例の解析からすでに14種類の変異を固定したように、その異常がASS遺伝子上に存在することは明白である。今回、日本のシトルリン血症I型5症例とIII型5症例からmRNA抽出→cDNA合成→PCR増幅→M13クローニング→塩基配列決定により、新たに5種類のミスセンス変異(A118T,A192V,R272C,G280R,R363L)を同定することができた。以前報告したR304W変異がさらに3症例に存在していた。これらすべてのミスセンス変異が、酵素の動力学的性質に異常をきたしたI型シトルリン血症に認められたことは興味深いことである。一方、mRNA内にexon7が完全欠失したDELTAEx7変異は、ASS蛋白が検出限界以下に低下するIII型を中心に多くの症例で見いだされた。ASS遺伝子上の異常部位を調べたところ、intron6の3′端側近くに1塩基置換(IVS-6^2変異)が確認でき、その結果スプライシング異常が生じることが示唆された。この塩基置換により変異遺伝子上に出現する制限酵素MspI siteを利用して遺伝子診断を行ったところ、IVS-6^2変異は15症例中11症例と非常に高頻度で存在すること、allele頻度では52%を占めることが明らかになった。
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