昨年、正常脳および繊維芽細胞ではミトコンドリア内膜に埋まった形で存在するF_0F_1-ATP合成酵素のsubunit cがBatten病患者細胞ではリソソームに著明に蓄積していることを明らかにした。このsubunit c蓄積の機構を解明するため、本年度は正常と患者繊維芽細胞におけるsubunit cの生合成と分解速度をパルス-チェイス実験で調べた。正常細胞では標識されたsubunit cは時間経過に伴い減少するのに対し、患者細胞では殆ど減衰がみられず、subunit cの分解が著しく遅延していることがわかった。しかし、他のミトコンドリア内膜タンパクの一つチトクロームc subunitIVの分解には異常がなかった。細胞分画とパルス-チェイスを組み合わせた実験により、用いたすべての患者細胞で前標識したsubunit cのミトコンドリア内画分における消失が遅延していることが示された。その後、このミトコンドリアに蓄積したsubunit cは徐々に1-2週間かけてリソゾーム画分に移行してゆくことが観察された。一方、subunit cの生合成速度、mRNA量は正常細胞の間に差はなかった。これらのことからBatten病のsubunit cの蓄積は、ミトコンドリア内における蛋白質分解の異常が一時的原因不明であり、リソソームへの蓄積は二次的なものと考えられた。本研究により、原因不明の遺伝病であるBatten病の病因を解明するための手掛かりを得た。
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