Batten病は一群の先天性神経変性疾患であり、いずれも原因、欠損蛋白質は不明である。最近、連鎖分析が進んで、若年型と幼児型は染色体の遺伝子座位が決まった。しかし、本研究で取り扱っている遅発性小児型はまだ解答が得られていない。Jolly達が羊モデル動物で、蓄積蛋白質の大部分がsubunit cであることを最初に明確にした。我々は正常脳および繊維芽細胞ではミトコンドリア内膜に埋まった形で存在するFOF1-ATP合成酵素のsubunit cがBatten病患者細胞ではリソソームに著明に蓄積することを明らかにした。このsubunit c蓄積の機構を解明するため、正常と患者繊維芽細胞におけるsubunit cの生合成と分解速度を測定した。正常細胞では標識されたsubunit cは時間経過に伴い減少するのに対し、患者細胞では殆ど減衰がみられず、subunit cの分解が著しく遅延していた。しかし、他のミトコンドリアタンパクの分解には異常がなかった。前標識したsubunit cは患者細胞ではミトコンドリア内画分における消失が遅延しており、このミトコンドリアに蓄積したsubunit cがその後徐々にリソゾーム画分に移行してゆくことが観察された。一方、subunit cの生合成速度、mRNA量は正常細胞の間に差はなかった。これらのことからBatten病のsubunit cの蓄積は、ミトコンドリア内における蛋白質分解の異常が一次的原因であり、リソソームへの蓄積は二次的なものと考えられた。この原因不明の遺伝病であるBatten病の病因を解明するための手掛かりを得た。
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