ヒト血漿型グルタチオン・ペルオキシダーゼ(PGPx)は、その活性中心にセレンを含む特異な蛋白であり、腎臓で組織特異的に産生され血液中へと分泌される。本研究では、PGPx遺伝子の発現調節機構を解明するために、PGPx遺伝子の単離、構造解析、遺伝子座位の決定、さらに産生細胞の同定を目的に実験を行い、以下の結果を得た。 1.PGPxをコードする遺伝子を含むコスミドクローンの単離に成功し、そのコード領域全てについて塩基配列を決定した。その結果、PGPx遺伝子は約10kbにわたっており、5つのエクソンより構成されていた。その第一エクソンを構成している部分は、PGPxの細胞外への分泌シグナルよりなっていた。プライマー伸長法により転写開始点を決定した。その結果、翻訳開始コドンであるATGよりも約420bp上流より転写されていること、および転写開始点の約80bp上流にRNA polymeraseの結合配列であるTATA boxが存在していた。転写開始点より更の5'上流領域を約1kbにわたってその塩基配列を決定したところ、TATA boxの上流180bpの位置に、細胞の分化、増殖に関与しているホメオボックス蛋白の認識配列であるTTTAATTAAA配列が存在していた。このことは、PGPx遺伝子の発現に、ホメオボックス蛋白が関与していることを示唆している。 2.単離したPGPx遺伝子を含むコスミドクローンをプローブとして、ヒト染色体のIn sitiハイブリダイゼーションを行った。その結果、PGPx遺伝子は5番染色体長腕(5q31-33)に存在することが判明した。
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