ヒト血漿型グルタチオン・ペルオキシダーゼ(PGPx)は、その活性中心にセレンを含む特異な蛋白であり、腎臓で組織特異的に産生され血液中へと分泌される。本研究では、PGPx遺伝子の発現調節機構を解明するために、PGPx遺伝子の単離、構造解析、遺伝子座位の決定、さらには、産生細胞の同定を目的に研究を行った。今年度においては、PGPx産生細胞を同定することを主目的に実験を行った。すなわち、PGPxの大量精製、モノクローナル抗体の作製、および酵素抗体法によるPGPx産生細胞の同定を試みた。 PGPxをヒト血漿より精製するのではなく、単離したヒトPGPx cDNAを大腸菌の発現ベクターに組み替えて、大腸菌でのリコンビナントPGPx産生を試みた。PGPxの活性中心を構成するセレノシステインは蛋白合成の終止コドンである"TGA"によりコードされている。そのため、この位置で蛋白合成が止まる可能性が考えられたので、"TGA"を"TGC"に一塩基置換したクローンも同時に作製し大腸菌での発現を行った。その結果、"TGA"を持つクローンでは、この"TGA"コドンで蛋白合成が終了していることが、また、"TGC"を持つクローンではPGPx遺伝子すべてに渡って合成されることが判明した。"TGA"を"TGC"に一塩基置換したクローンが産生するPGPx(c)は酵素活性は持たないが、PGPxの抗原性は十分に保存されていると考えられる。今後、このリコンビナントPGPx(c)をマウスに免役し、モノクロナール抗体の作製および酵素抗体法によるPGPx産生細胞の同定を行う予定である。
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