平成4年度の本研究では、まず、クローン化したヒトFas抗原cDNAをプローブとして、マウスFas抗原cDNAを単離し、その構造を決定した。マウスFas抗原cDNAをプローブとして、いろいろな組織におけるmRNAの発現量を調べた結果、胸腺、心臓、肝臓、肺、卵巣などで発現が認められた。さらに、Fas抗原遺伝子の制限酵素断片が、マウス種間で、多様性(RFLP)を示すことを用いた解析から、マウスFas抗原遺伝子は第19番目の染色体にマップされ、ほぼ同一の領域にマウスの変異遺伝子1pr(lymphoproliferation)が存在することが明らかになった。1pr変異を持つマウスでは、Fas抗原遺伝子に変異が存在し、Fas抗原のmRNAがほとんど発現されていないか、Fas抗原の細胞死を誘起する活性が失われていることが明らかになった。以上の結果から、Fas抗原は、1pr変異の構造遺伝子であることが示唆され、Fas抗原の機能が失われると、異常T細胞を蓄積するとともに、自己免疫疾患の症状を呈することからFas抗原はT細胞の細胞死を制御している可能性が示唆された。 Fas抗原による細胞死のシグナル伝達機構を明らかにするために、マウスリンフォーマWR19L細胞にヒトFas抗原のcDNAを導入し、これを発現する細胞株を樹立した。この細胞は、抗Fas抗体で処理することにより細胞死が誘導される。ヒトFas抗原の欠失変異体を用いた解析の結果、細胞質ドメインの大部分が細胞死のシグナル伝達に必要とされることが明らかになった。Fas抗原とTNF受容体の細胞質ドメインの間で約70アミノ酸の領域が類似性を示し、この領域が細胞死のシグナル伝達に関与していることが示唆された。
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