アルツハイマー病やその他の疾患の剖検例から得た脳組織を用い、免疫組織化学的に検討し、老人斑形成におけるインターロイキン6の役割を解明することを試みた。アルツハイマー病に出現するアルツハイマー神経原線維変化(NFT)および老人斑は、加齢に伴って出現するものとの間に本質的な差違を示さなかった。すなわち、いずれの場合もNFTにはtau蛋白ならびにユビキチンが主として検出され、老人斑にはβアミロイド、βアミロイド前駆蛋白、血清アミロイドP、α1アンチキモトリプシン、α2マクロブロブリン、ラクトトランスフェリン、アポリポ蛋白E、補体成分C3dならびにClqが多数かつ多量に認められ、また種々の程度に血清アミロイドA、アンチトロビンIII、ラミニン、補体後期成分C5-9、インターロイキン1β、インターロイキン6も検出された。インターロイキン6は老人斑に加え、その周囲のアストロサイトにも陽性反応がみられ、この所見は非病変脳では観察されなかった。インターロイキン1βも何らかの病変を有する脳のグリア細胞の多数に検出されたが、非病変脳との間に著明な差を認めなかった。これらの所見から、βアミロイドの沈着が引き金となってグリア細胞のインターロイキン6産生亢進が生じ、局所におけるα1アンチキモトリプシンやα2マクログロブリンの産生が高まりβアミロイド産生をさらに増強することが推測された。この仮説を検討するためにインターロイキン6受容体を発現する細胞の同定を試みたが、ごく少量のレセプター発現が原因と思われるが現在のところ免疫組織化学的に同定できていない。一方、免疫組織化学的にインターロイキン6陽性細胞が真にインターロイキン6を産生しているか否かを確認するために、組織切片上でのmRNAの検出を試みたが、研究期間中に結果を得るに至っていない。今後は分子遺伝学的手法を用いた解析を進めたい。
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