日本人成人胃粘膜に高頻度に観察される慢性萎縮性胃炎の成因の有力候補として、Helicobacter pylori感染が提唱されている。我々は従来慢性萎縮性胃炎の局所免疫機構を追究し、慢性萎縮性胃炎の終末細織像として観察される腸上皮化生が、持続する炎症に対する胃粘膜の適応現象であると提唱してきた。即ち、分泌型IgAを介する局所免疫機構は、腸上皮化生を欠く慢性萎縮性胃炎粘膜では十分に機能していないのに対して、腸上皮化生を粘膜では極めて効率的に作動しているのである。 本年度は、慢性萎縮性胃炎における抗原性物質としてH.phloriを想定し、本菌に対する特異抗体が胃粘膜のどの部位でどのように産生されるのかを、「酵素抗原法」を用いて証明するための基礎技術を検討した。 多数例のヒト胃生検粘膜を組織学的に観察すると、H.pylori感染は、好中球浸潤の目立つ非化生性胃粘膜に限って認められ、腸上皮化生粘膜表面には全くみられないことが極めて特徴的であった。このことは、腸上皮化生粘膜においては、H.pyloriに対する分泌型IgAを介する局所免疫が成立している可能性をつよく示唆している。 「酵素抗原法」(標識抗原により、これに対する特異抗体産生部位を同定する組織化学的手法)のための標識抗原の作製には、予想以上の困難が経験された。培養H.pylori粗抽出物(ビチオン化)を抗原として、preliminaryな手扱的検討を行ったが、今のところ十分な特異性を示す成績は得られていない。現在、H.pyloriの抗原、とくにureaseの純化、標識を検討中である。また、大腸菌の系を用いたmaltose-linding proteinとH.pylori構成蛋白とのリコンビナント蛋白(fusion protein)の作製を計画している。
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