研究概要 |
小児悪性固形腫瘍・神経芽腫は未分化な神経芽細胞より発癌し、正常な分化の過程から逸脱する事により進展すると考えられている。N-myc癌遺伝子産物は核内蛋白質として、遺伝子の転写制御により神経芽細胞の未分化な形態を決定づけており、神経分化に密接に関与している。我々はこれまでに、c-src,c-Ha-ras遺伝子といった情報伝達系遺伝子が神経芽細胞腫の分化に関わる事、特に、c-src遺伝子からalternative splicingによりcodeされる神経特異的src mRNAが、神経芽腫の分化に伴い発現が高まる事を見いだしてきた。本研究ではN-myc非増幅型神経芽細胞腫にN-myc発現vectorを導入し、N-mycの過剰発現が細胞の生物学的特性と情報伝達系遺伝子にいかなる影響を及ぼすかを解析し、神経分化における遺伝子発現制御蛋白と情報伝達系蛋白の相互作用の解明を目指した。 N-myc非増幅型神経芽細胞腫NB69から、神経突起を有するsmall round cellをlimitting dilutionによりcloningし(NB69N)、この細胞にN-myc発現vectorとcontrol vectorをtransfectionし、N-myc transfectant NB69N41〜47、control transfectant NB69NRを得た。NB69N47とNB69NRとの間には増殖能に有意な差は認められなかったが、低濃度血清下での増殖能では、NB69N47は細胞の生存期間が長かった。足場依存性の変化を軟寒天コロニー形成率で調べると、NB69N47は、NB69N、NB69NRに比べ約6倍のコロニー形成率の上昇を認めた。S1 nuclease protection assayの結果、N-mycの発現は神経特異的src mRNAの発現に影響は及ぼさなかった。N-mycの発現は情報伝達系遺伝子の機能とは独立した形で、神経芽腫の低血清濃度下での生存に有利に働き、軟寒天コロニー形成率を上昇させるなど、腫瘍の悪性度に寄与している可能性が考えられた。
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