マウス胎児期の神経細胞に発現する遺伝子を検索する目的で、胎生期8.5日のemobryoの神経管由来細胞株(C3KSP)を樹立した。この細胞株における既知の神経系マーカーの発現を検索した結果、Glial fibrillary acidic protein(GFAP)の発現が検出され、glia細胞への分化が示唆された。さらにこの細胞はDMEM+10%FCSの条件で培養するとメラニン色素を産性する能力を有するので、神経堤細胞を起源としている可能性も考えられる。我々は1つの指標としてチロシンキナーゼの発現に注目し、まずこの細胞中にチロシン燐酸化蛋白が存在するかどうかを抗燐酸化チロシン抗体を用いたWestern blottingにて検索した。その結果、約160kDaの分子量を有する蛋白が著明に燐酸化を受けていることが判明した。C3KSP細胞を膜、細胞質、核分画に分離すると、160kDa蛋白は膜分画のみに検出された。さらに抗燐酸化チロシン抗体で細胞抽出物を免疫沈降後、kinase assayを行うと160kDa蛋白に一致する部分に^<32>Pの取り込みが検出され、160kDa蛋白自身にキナーゼ活性が存在することが強く示唆された。さらに燐酸化をうけた160kDa蛋白をゲルから溶出し、アミノ酸分析を行ったところ、セリン、スレオニン、チロシン残基のすべてに^<32>Pの取り込みが観察さけた。現在までクローニングされているチロシンキナーゼに中で160kDaという分子量に近い蛋白をコードしている遺伝子の発現をノーザンブロット法で検索したが、C3KSP細胞においてはどの遺伝子の発現も見られず、160kDa蛋白は未知のチロシンキナーゼであると考えられた。 来年度はこの160kDa蛋白を精製し、部分アミノ酸配列を決定することによりcDNAクローニングを行う。それにによりこの蛋白の神経系細胞における興味ある役割が明かになるものと期待される。
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