正常ヒト肝臓に由来し、肝分化機能を発現する肝細胞株を樹立する目的で、本年度は成人肝臓由来の正常肝細胞にSV40 T-抗原遺伝子を導入して不死化を試みた。成人肝細胞の初代培養1日目にSV40 T-抗原遺伝子とネオマイシン耐性遺伝子を含む組み換えDNA(pSV3neo)をリン酸カルシウム沈殿法で導入した後、コロニー性クローニングによりネオマイシン(G418)耐性細胞系を得た。しかし本細胞系は、18週令ヒト胎児肝細胞の場合(平成4年度報告)とは異なり、crisisの後増殖を停止して不死化しなかった。 平成4年度にSV40 T-抗原遺伝子を導入して不死化させたヒト胎児(18週令)由来の肝細胞株(OUMS-22)は、肝発癌のマーカー酵素であるグルタチオンS-トランスフェラーゼπを発現し、また数的および構造的染色体異常を示して軟寒天内で増殖するが、ヌードマウスに腫瘍を形成しない。本細胞株を癌化させる目的で、点変異ras遺伝子[pRASneo-(E61AM12)]とハイグロマイシン耐性遺伝子[pSV2hyg]を10:1の比で同時に導入した。コロニー性クローニングによりハイグロマイシン耐性細胞を分離してヌードマウスに移植したが、腫瘍は形成されなかった。このrasを導入した細胞に、さらに点変異p53遺伝子[pCDM8U-251/neo]を導入したが、この場合も癌化しなかった。また、アフラトキシンB_1単独あるいは肝発癌プロモーターであるフェノバルビタールとの組み合わせでOUMS-22細胞を処理したところ、軟寒天内増殖性が有意に増強した。しかし、現在のところ未だ癌化していない。このように、今回用いた点変異ras遺伝子やp53遺伝子では癌化しなかったが、これら以外の両遺伝子の変異体を導入すれば癌化する可能性が考えられる。また、B型肝炎ウイルスDNAによる癌化の可能性も残っている。これらの点について、今後も検討を重ねる予定である。
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