ヒト胎児(18週令)由来の正常肝細胞にSV40 T-抗原遺伝子およびネオマイシン耐性遺伝子を含む組み換えDNA[pSV3neo]をリン酸カルシウム沈殿法で導入した後、コロニー性クローニングによりネオマイシン耐性細胞系OUMS-22を得た。本細胞系はcrisisを経て不死化した。同じ方法で、成人由来の正常肝細胞にもSV40 T-抗原遺伝子を導入したが、不死化細胞株は得られなかった。OUMS-22細胞株は核に局在するT-抗原を発現する。本細胞株は上皮様形態を示してケラチン18単クローン抗体に反応するが、α-フェトプロテインやアルブミンのmRNAを発現しない。しかし、アフラトキシンB_1、ベンズピレンなどの発癌物質に感受性を示すことから、本細胞株がこれらの発癌物質を代謝活性化する酵素を維持していると考えられた。また、本細胞の不死化過程で肝発癌のマーカー酵素であるグルタチオン S-トランスフェラーゼπの発現が著しく増強した。OUMS-22細胞株は数的および構造的染色体異常を示して軟寒天内で増殖するが、ヌードマウスに腫瘍を形成しなかった。OUMS-22細胞株を癌化させる目的で、点変異ras遺伝子[pRASneo-(E61AM12)]とハイグロマイシン耐性遺伝子[pSV2-hyg]を10:1の比で同時に導入した。コロニー性クローニングによりハイグロマイシン耐性細胞を分離してヌードマウスに移植したが、腫瘍は形成されなかった。このrasを導入した細胞に、さらに点変異p53遺伝子[pCDM8U-251/neo]を導入したが、この場合も癌化しなかった。また、アフラトキシンB_1単独あるいは肝発癌プロモーターであるフェノバルビタールとの組み合わせでOUMS-22細胞株を処理したところ、軟寒天内増殖能が有意に増強した。しかし、現在のところ未だ癌化していない。
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