胃の腸上皮化生の安定性に関する形態学的並びに分子生物学的研究

1992 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 04670211
• 研究機関: 広島大学
• 研究代表者: 渡辺 敦光 広島大学, 原爆放射能医学研究所, 助教授 (00034653)
• 研究分担者: 伊藤 明弘 広島大学, 原爆放射能医学研究所, 教授 (60034633)
• キーワード: ラット / X線 / 腸上皮化生 / 胃癌 / 食塩 / アルコール / アルカリフオスファターゼ / 味噌

研究概要

今年度は5週齢雄SDラットを用いて胃部に10GyのX線を3日間隔で2回合計20Gyを照射後1%並びに10%食塩添加餌、10%乾燥赤味噌添加餌、並びに10%エタノール投与群を設け腸上皮化生の発生と胃癌発生について検討した。照射1年後に動物を屠殺し、胃を歯科用のパラフィンの板の上で広げ、10%中性フォルマリン液で固定後アルカリフォスファターゼ(ALP)活性を計測し、組織切片を作成した。ALP活性を持つ腸上皮化生は1%の食塩餌投与で数のみならず形もX線単独群と比較すると有意に増大した。味噌餌群でも増加したが有意ではなかった。一方、10%食塩餌、並びに10%エタノール群では1%食塩餌投与群に比して有意に減少した。我々は胃底腺の萎縮もしくは壁細胞の機能不全による酸分泌の減少が腸上皮化生を誘発する一要因であると考えている。本実験でも胃底腺の丈の高さとALP活性を持つ化生数と逆相関を呈した。更にX線を胃部に同様に照射し、6ヵ月後よりセルベックスを投与した。この薬剤は胃潰瘍治療薬の一種でその作用機序は酸の分泌には関与せず粘液の分泌を高める物質である。その結果セルベックスを行ってもALP活性を持つ化生の数はX線単独と比較して増加を認めなかった。即ち酸の分泌を変化させないために腸上皮化生を促進しなかった事となり、いずれの実験に於いても我々の作業仮説を支持していると思われる。
次に4週令の雄のACIラットに0.125mg/10g体重のMNNGを1回胃チューブで投与しその後10%食塩餌並びに10%エタノール投与を行った。その結果として10%食塩は胃癌のプロモータとなる事が示された。この様に10%食塩はMNNG誘発胃癌のプロモータとなるうるために、上記の実験で化生を起こし10%の食塩餌投与では幽門腺の丈の増加が認められたにもかかわらず胃癌の増加を示さなかった事から腸上皮化生は胃癌の前癌病態ではない事が示唆された。

研究成果

• [文献書誌] Nakagawa,Watanabe, Takahashi,Ito,Dohi: "Carcinogenesis of 1,2-dimethylhydrazine in colorectal tissue heterotopically transplanted into the glandular stomach of rat," Japanese Journal of Cancer Research. 83. 24-30 (1992)
• [文献書誌] Takahashi,Watanabe, Dohi,Ito: "^<252> Cf relative biological effectiveness and inheritable effects of fission neutrons in mouse liver tumorigenesis" Cancer Research. 52. 1948-1953 (1992)
• [文献書誌] Watanabe,Takahashi,Okamoto,Ogundigie Ito: "Effects of sodium chloride and ethanol on stomach tumori-genesis in ACI rats。treated with N-methyl-N-nitro- N-nitorosoguanidine." Japanese Journal of Cancer Research. 83. 588-593 (1992)
• [文献書誌] 渡辺,藤本,高橋, 岡本,伊藤: "胃癌活発に及ぼすプロラクチンの影響" Journal Toxicologic Pathology. 5. 93-97 (1992)
• [文献書誌] Ito,Takahashi,Watanabe, Ogundigie,Okamoto: "Significance of strain and sex differences in the development of ^<252>Cf neutron-induced liver tumors in mice." Japanese Journal of Cancer Research. 83. 1052-1056 (1992)
• [文献書誌] Watanabe,Takahashi, Okamoto,Ogundigie,Ito: "The effects of sodium chloride,miso or ethanol on intestinal metaplasia induced by X-irradiation rats." Japanese Journal of Cancer Research. 83. 1267-1272 (1992)
• [文献書誌] Watanabe,Takahashi,Ito,Hoshi,Sawada: "In “Tumorigenicity by low energy fission neutron in mice.In “Low dose irradiation and biological diffence mechanism" by Sugahara,Sagan,Aoyama." Elservir Science Publisher, 510 (1992)