研究概要 |
本研究は神経膠腫におけるαB-クリスタリンの発現亢進が腫瘍の生物学特性とどのような関係があるかを検討し,種々の神経疾患におけるグリア細胞の反応機構と比較検討する事を目的としている。αB-クリスタリンの免疫組織化学染色で,脳腫瘍では主にグリオーマに発現がみられ,退形成が進んだものにその発現が亢進している細胞が多くみられた。αB-クリスタリンの機能面として,主に培養細胞を用いた実験から,この蛋白質が低分子量熱ショック蛋白質に属することを示す以下のデータを得た。 1)C6グリオーマ細胞において,熱ショックや過酸化水素水を用いたoxidative stressによって発現が誘導された。 2)αB-クリスタリン遺伝子の5^1上流に2箇所,熱ショック調節配列がみられた。 3)αB-クリスタリンはHSP27と同様に熱ショック等により速やかに不溶性分画へと移行するものがみられた。 4)通常の培養条件下ではびまん性に細胞質内に分布しているαB-クリスタリンが,ストレス状態下で急速に分布を変え,不均一に凝集していることを見い出した。 5)v-mosをグリオーマ細胞に強制発現させるとαB-クリスタリンの発現が増大してくることがNarthern blottingによって示唆された。 6)グリオーマ細胞株にαB-クリスタリン遺伝子を導入し,その発現量を変えた種々の細胞株を得た。 C6グリオーマ細胞株を用いた実験でαB-クリスタリンの発現量が多い細胞株に熱ショックに対する耐性が増強している傾向がみられた。ついで,αB-クリスタリンと比較する目的でHSP27に対する抗体を作製し,これを用いた免疫染色で,以下の結果を得た。 1)HSP27はグリオーマ細胞以外にも神経芽細胞腫株などより広い種類の細胞に発現がみられた。 2)髄膜腫では特に多く発現がみられ,特殊な封入体であるgranulofilamentous inclusion bodyが陽性となった。 3)ローゼンタール線維にはHSP27も含まれていた。
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