研究概要 |
私達はアストロサイトの細胞質内封入体であるローゼンタール線維の主要成分が水晶体蛋白質alphaB-クリスタリンであることを同定した。alphaB-クリスタリンは正常脳組織では発現量は少ないが、種々の疾患脳で反応性グリアや一部のニューロンに蓄積がみられ、アストロサイト由来の腫瘍細胞には高率に発現している。本研究は神経膠腫におけるalphaB-クリスタリンの発現亢進が腫瘍の生物学的特性とどのような関係があるかを検討し、種々の神経疾患におけるグリア細胞の反応機構と比較検討する事を目的としている。本年度はalphaB-クリスタリン蛋白質の神経系における機能について検討するためにグリオーマ細胞に遺伝子導入を行ない、発現レベルの異なるモデルを作成してその機能解析を進めた。この実験では構成的に発現を変化させる目的で、ラウス肉腫ウイルスのプロモーターの下流にalphaB-クリスタリンのcDNAを正方向ないし逆方向に連結したものをグリオーマ細胞(C6,U-373MG)に導入し、alphaB-クリスタリンの高発現系および発現抑制系を作成した。 alphaB-クリスタリンの発現を抑制すると細胞は小型で細長くなり、ストレスファイバーの減少ないし消失をきたし、細胞の基質への接着性が低下した。逆にalphaB-クリスタリンの増加はグリオーマ細胞に熱ショックへの耐性獲得に寄与することが分かった。以上の結果よりalphaB-クリスタリンは、グリオーマにおいて細胞骨格構造の安定化に関与し、種々のストレス耐性の担い手となっていることが示唆された。
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