1. 浸透圧保護試験と電顕観察 グラミシジンによる溶血が感染赤血球膜への損傷ならば、外液に適当な浸透圧保護物質を添加することで防御できる。そこで、種々のポリエチレングライコール(PEG)を添加し、溶血に対する影響を調査した結果、PEG4000の添加でほぼ完全に溶血が阻止された。従って、グラミシジンによる溶血は、膜に37A以上の穴をあけ、ヘモグロビンが溶出するものと判明した。しかし、超薄切片法、走査電顕法、フリーズフラクチャー法などの電顕観察では、説明し得る開口部は認められなかった。感染赤血球から放出された原虫の形態は正常で、グラミシジンの原虫自身に対する影響は少ないものと考えられるが、寄生虫由来膜も破壊を受けておらず、脱出機構は不明である。 2. 熱帯熱マラリア原虫に対する影響 熱帯熱マラリア原虫の増殖性と付着性に対する影響を調査した結果、低濃度のグラミシジン添加より完全に増殖が抑制された。また、熱帯熱マラリア原虫感染赤血球をメラノーマ細胞と共培養し付着させた後、グラミシジンの添加により感染赤血球膜が破壊され、処理区では明かに付着していた感染赤血球の脱落が観察された。この事実は、脳マラリア症などの重症マラリアの治療法の開発に応用出来るものと思われる。
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