研究概要 |
bruceiトリパノソーマの虫体表面の変異性糖蛋白質(VSG)が変異する機構についてはかなり詳細に説明できるようになったけれども,何が契機となって一連のプロセスが動き変異が生ずるのか全く解明されていない。変異の頻度は10^<-7>〜10^<-4>の範囲といわれている。この頻度を確定することを目的とし,極めて少数の集団を増幅して検出するため,発現中のVSGのmRNAをPCR法により増幅検出する方法を開発することが主眼である。Trypanosoma b.gambiense Wellcome株についてすでに30種類ばかりのVSGクローンを保存しているので,それらのVSGに対するモノスペシフィックなマウス抗血清を作成した。VSG KuTatl.1,KuTatl.2,KuTatl.3の原虫からオリゴdTマグネットを用いてmRNAを分離しcDNAをクローニングするにあたって,VSGの分子量からcDNAの長さを1.7kbと想定して電気泳動されたバンドを切り出し,プラスミドベクターに挿入しようとしたが成功しなかった。そこでSchistosoma japonicumのグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)遺伝子をもつプラスミドベクターにその遺伝子とインフレームで連結するようにcDNAを挿入し,GST-VSG融合蛋白質が合成されるような発現ベクターを作成した。このベクターを大腸菌5αにいれてトランスフォームライブラリーをつくり,インダクションをかけ,抗KuTatl.1モノスペシフィックマウス抗血清により目的のコロニーを選択した。同様にしてKuTatl.2のVSG遺伝子もクローニングできた。KuTatl.3については進行中である。 この2種類のVSG遺伝子をクローニングする過程で新しくVSGの特性を見いだした。VSGにはN末に可変部があり,C末には抗原性について保存されたCRD(cross reactive determinant)とよばれる部位がある。ウェスタンブロットの結果から融合蛋白質として発現されるVSGはCRD部位がプロテアーゼにより切断され易くなることが推測された。
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