研究概要 |
タイラーウイルス(TV)急性亜群(GDVII株)はマウスに致死的な灰白脳脊髄炎を起こす。一方慢性亜群(DA株)はマウスの中和抗体価が高値であるにもかかわらず、その脊髄に持続感染し、単核球浸潤を伴った一次性脱髄を引き起こす。このため慢性亜群はウイルス性脱髄疾患のモデルとして注目されている。我々は以前よりDA株の持続感染には構成蛋白のVP1の3'末端に存在するトリプシン感受性中和エピトープ(TrNE)が重要であることを指摘してきた。今回比較の意味でGDVII株のTrNEを検討したところ、DA株のほとんど同様な動向を示すことが分かった。ただし脳組織に感染しているDA株のVP1はほとんど開裂しているにもかかわらず(従って中和抗体からの攻撃から免れうる)、GDVII株のVP1は開裂していないのが分かった。中枢神経内のウイルス構成蛋白の開裂、非開裂がウイルスの持続感染に重要である可能性を指摘できた。ついでCNS内でのウイルスの増殖、宿主免疫応答が両亜群で異なるかどうかを検討した。GDVII株のウイルス感染価は接種後急速に上昇したが、血清抗体価は非常に低値であった。一方DA株では、感染価は6日目にピークに達したが、その後徐々に低下し、35日目にはほとんど検出できなかった。血清中和抗体価は6日目で検出され、35日目で1:2,048になった。GDVII株感染ではCNS内炎症細胞数はDA株感染に比べて少数であった。さらに浸潤細胞のサブセットは、炎症の極期である6日目でも単球/マクロファージ系細胞(M/M)が優位であった。一方DA株では6日目で既にかなりの数のCD3細胞がCNSに浸潤しており、そして11日目でピークに達し、その後減少するが、35日目でもかなりの数のCD3細胞が浸潤していた。またTV抗原に対する増殖反応はDA株では明かに陽性であったが、GDVII株では認められなかった。以上両亜群ではCNSにおけるウイルスの増殖そして宿主の免疫応答にかなりの差が認められ、これらの因子が両亜群の生物学的性状を規定している可能性が示唆された。
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