単純ヘルペスウイルス2型の病原性発現にus3遺伝子産物がどのように関わっているのかを明らかにするため、us3遺伝子を遺伝子工学的手法により不活化した変異ウイルス(LIBRI)を作製し、マウスモデル系において解析した。LIBRIのVero細胞、マウス線維芽細胞における増殖性は野生株と比べ顕著な差がないにもかかわらず、4W令マウスの腹腔や後肢に接種した時の病原性(毒力)は著しい低下(1万倍以上)を示した。一方、角膜や脳への接種では10倍程度の低下の留まり、中枢神経系においても変異ウイルスはよく増殖することがわかった。4W令マウスの腹腔への接種では、野生株がどの腹腔内臓器でもよく増殖するのに対し、LIBRIは肝、脾などでほとんど増殖しなかった。しかし、新生児マウスにおいては肝、脾でもよく増殖した。LIBRIの新生児マウスでの増殖は、成人マウスから得た腹腔マクロファージを移入することによって強く抑制された。また、変異ウイルスは、成人マウスから分離した腹腔マクロファージでは野生株と異なり増殖することができなかった。解析の結果、増殖阻害はウイルスDNA合成のレベルで起こっていることが示唆された。以上の結果は、感染初期過程における宿主との相互作用においてus3遺伝子産物が重要な役割を果していること、とくに非持異的防御反応において中心的役割を果たすマクロファージとの相互作用においてus3プロテインキナーゼの発現が重要であることを示している。
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