免疫グロブリン(Ig)膜型mu鎖、VpreB及びlambda5から成るプレB細胞レセプターのIg遺伝子再構成や細胞分化制御に果たす役割を個体レベルにおいて明かにするために、ジーンターゲティング法を用いて作製した膜型mu鎖或はlambda5蛋白を欠損する遺伝子変異マウス(muMT或はlambda5T)の解析を更に進めた。これらのマウスではB細胞分化が大型プレB細胞の段階で抑制されており、従って、プレB細胞レセプターがこの分化に必要であることがわかった。しかし、kappa鎖遺伝子再構成は、正常マウスと同様、これら変異のマウスにおいても初期幼若細胞から始まっており、kappa鎖遺伝子再構成の開始が膜型mu鎖域はプレB細胞レセプターに依存しないことも明らかとなった。プレB細胞レセプターには、sIgMと同様に非受容体型チロシンキナーゼが会合しており、これがB細胞分化を制御するシグナルを伝えている可能性がある。我々が以前単離した血球系細胞特異的遺伝子HS1の産物である75kD蛋白は抗IgM抗体刺激直後のB細胞においてリン酸化されること、そしてこれは、膜型IgMに会合するチロシンキナーゼLynによるものであることがわかった。よって、HS1はプレB細胞レセプターからのシグナル伝達にも関与することが考えられた。しかし、ジーンターゲティングにより作製したHS1欠損マウスでは、B細胞分化に明らかな異常は見られなかった。ところが、このマウスのB及びT細胞は抗原受容体架橋によるアポトーシスに対し抵抗性であることがわかった。従って、HS1のプレB細胞における機能は不明であるが、B或はT細胞においては抗原受容体からのシグナル伝達にHS1が必要であることが明らかとなった。
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