本研究は女性の夜間労働に伴う健康影響のうち、特に循環器系の生体リズムに及ぼす影響に着目し、まず、1.生理学的データの時系列変動に対する数量的解析手法の確立する。2.労動環境や労動負担、心理社会的ストレスに対する行動医学的アプローチによる検討を加え、生体内外の関連要因を追求する。3.前記の結果を集約し、生体影響の作用機序の解明を図ることを目指した。1.については、24時間連続測定記録された最大血圧、最小血圧、心拍数などの生理学的指標に対して、最大エントロピー法を用いた時系列解析(パワースペクトル解析)を行った。得られた周期値とパワー値から最小二乗法による人工合成曲線フィッティングを行い、原データとの差分ならびに差分の標準偏差を算出したが、それらは原データの実測値の約1/10^<-9>であり、本研究で用いたパワースペクトル解析の妥当性が検証された。さらに、人工合成曲線を用いて、個々の時間変動の特徴を見極め、とりわけ時間位相の変化を定量的に抽出することが可能となった。2.については、日勤者と夜勤者の生体機能を比較し、勤務終了時点の自覚疲労感はいずれも大差はなく、日勤者、夜勤者ともに15分もしくは30分間隔の血圧測定データから、5-6時間にわたる周期位相の持続性が明らかとなった。しかし、仮眠なしの夜勤明けにおける昼間睡眠では持続的な熟睡に至らず、中途覚醒による血圧や心拍数の増加が繰り返し観測され、さらに、精神的要因による急性ストレス反応も含めてこれらの要因は血圧、心拍数の時間変動に影響を及ぼすことも明らかとなった。以上の成果から3.については、性差は十分に明らかにすることはできなかったものの、夜間労働における仮眠の確保や精神的ストレスの軽減化は生体リズムの恒常性維持に重要であることが示唆された。労動省による女子の夜間労働規制緩和施策の導入に際しては、産業職場の健康管理対策の充実が一層重要であると考えられた。
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