活性酸素による細胞障害、なかでも酸化的DNA損傷は老化及び成人病の発症と深く関わっている。酸化的DNA損傷の定量的把握・損傷誘発・防御・予防機構解明のための指標として、代表的な酸化的DNA損傷である8ヒドロキシデオキシグアノシン(80HdG)並びにDNA鎖切断量の測定系を確立した。活性酸素負荷により細胞内DNAにおける80HdGの増加が、定量的に検出できた。DNA鎖切断はパルスフィールドゲル電気泳動で検出できたが、定量性及び処理時間に問題があった。活性酸素に高感受性のFanconi貧血症患者由来の細胞は、高濃度過酸化水素負荷で、正常者由来細胞より多くの80HdGを生成した。その原因として、カタラーゼ活性の低下が示唆された。活性酸素を産生させると報告されているアスベストの実験では、好中球あるいはマクロファージに分化し得るヒト前骨髄球性白血病細胞(HL60)を用いた。好中球様に分化したHL60に、オプソニン化したアスベストを添加することにより活性酸素(02-)の発生がESRで確認できた。しかし、80HdGはほとんど誘発されなかった。マクロファージ様に分化したHL60に、アスベストを添加すると、活性酸素の産生増加は認めなかったが、細胞はアスベストを貧食し、80HdGの増加が認められた。このアスベストによる80HdGの増加は、カタラーゼやSOD(活性酸素を除去するに十分量の)では抑制されず、貧食抑制剤のサイトカラシンBで抑制された。これらの結果から、活性酸素が発生すれば必ず酸化的DNA損傷が生じるのではなく、活性酸素の発生する場所もDNA損傷誘発に重要な要因であることが解った。すなわち、アスベストが貧食により核の近傍に取り込まれ、そこで活性酸素を産生し、80HdGを生成すると考えられる。ヒトにおける酸化的DNA損傷を把握する目的で、健常者集団における末梢血白血球中の80HdGを定量した。活性酸素産生能の高い好中球は、単核球とほぼ同量の80HdG値を示した。白血球調整時に赤血球が残存すると、DNA抽出過程で80HdGが生成した。年齢やライフスタイル要因と80HdG値間に相関が認められなかったが、これは80HdG値の分布が80HdG測定誤差に比べ小さいためと考えられた。
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