[目的]タリウムは毒性が強いので、以前には殺鼠剤、殺虫剤として使われた。最近タリウムは超電導素材、半導体産業の素材として注目されている。そこでタリウムが生体内に摂取された場合の体内分布、また生体内からの消失を観察することを主目的としてマウスを使って実験した。 [方法]1.マウス(6週齢、♂)に0.2ppm Tl含飲料水を1週間自由に摂取させ、1、3、7日後にTlの臓器内分布と排泄量を観察した。 2.20ppm Tl含飲料水を3週間自由に摂取させる。 (1)翌日および3週間後解剖、(2)翌日50μmol Tl/kgの強制経口投与し、その翌日および3週間後に解剖、(3)50μmol Tl/kg 1回強制経口投与し、その翌日および3週間後に解剖。 各マウスから骨、肺、腎臓、骨髄細胞、顎下腺、消化管内容物、精巣、筋肉、膵臓、膀胱、消化管、脾臓、心臓、脳、肝臓、RBC、Plasma、Hair、尿、糞の20検体についてTlを分析した。 [結果および考察]次のことが明らかとなった。 1.経口摂取したTlは測定した全ての臓器に分布していた。 2.摂取を中止すると各臓器からのTlの消失は比較的早く低濃度摂取の場合、3日後に約1/2、7日後に約1/10となる。 3.連続的に摂取したTlは尿中に10〜30%、糞中に35〜60%排泄された。 4.臓器中Tl濃度は骨に最も高く、摂取中止後も濃度は下るが長く存在している。 5.消化管、精巣、顎下腺は比較的Tlとの親和性の高い臓器である。 6.体毛中Tlは摂取総量との相関が高い。 7.血値GOT、Al-P、血中ALADには著明な影響はなかった。 [結論]経口的に侵入したTlは殆ど全ての臓器に分布するが、消失は速やかである。 Tlの生物学的モニタリングには体毛が有効である。
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