研究概要 |
1)1985年に千葉県天津小湊町に勃発したニホンヤマビル異常大繁殖は,同地に設定した観察用定点で約20日間隔の調査を継続した結果,92年までは年々増強して同年頂点に達した[活動期間の平均出現数263.2(52〜815)匹]が,以後初めて下向した[93年平均114.9(31〜219)匹]。これは冷夏と云われた93年の春が冷涼だったことと,供血および伝搬宿主である鹿(ホンシュウジカ)の生息頭数が92年>93年に減少して,街への出現〜徘徊が減少したことによる考えられた。当初10月までだった活動期間が12月まで延ばしてきたのは,年々続く暖冬と,寒冷や土地への馴化によると思われた。 2)房総半島以外のヤマビル繁殖地として,神奈川県丹沢山塊,秋田県南部,宮城県金華山,奈良県春日山原始林のヒトの被害状況やヤマビルとシカ(秋田ではニホンカモシカ)との関係を踏査した。前2地域はヤマビルが旧来の源棲地から近年急速に新たな地域へ生息域を拡めた地方で,房総と同様バイオハザードが著しいが,後2者は古来シカとヤマビルとが共存する地域で,藪に侵入する生物学者や山林でのシカ捕獲作業者以外の一般住民はほとんど被害を受けていない。 3)房総半島のシカには,第3・4趾間に有穴腫瘤が形成され,ヤマビルがその穴腔内に侵入して留まったり,四肢へ非吸血性に付着するなど,両種動物間には寄生虫と其の固有宿主のような奇妙な関係があることを1991年に発見して報告したが,金華山や春日山のシカとヒルではそのような関係は見られなかった。 4)房総の定点調査中に遭遇した放浪犬(小型ビーグル種,頬から流血)の足底趾間に付着・吸血していた3匹のヤマビルを除去後,毎分出現頻度1.4匹/分の定点内を10分間散策させたら,計7匹のヤマビルが付着し,5匹が吸血していた。以上のうち計9匹を飼育したところ,未吸血の1匹を除く8匹が3日以内に死滅した。 以上から野犬の旺盛な伝搬能力が実証されるとともに,野犬体内の抗ヤマビル抗体の存在とそれによる免疫学的間引きがあるものと推定された。
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